鍼通電と併用している治療はありますか。
高橋:棒灸や温灸、もしくは遠赤外線など温熱刺激と併用することが多いですね。足元にはトワテックのホットパックを使っています。
陣内:私も棒灸や遠赤外線を使っています。鍼刺激に熱刺激を加えることで、神経速度も速くなり、疼痛緩和によい効果を出すことができます。
高橋:鍼治療は暖めたほうが副交感神経優位になりますから。患者さんも心地よいですよね。
鍼通電治療のセミナーやワークショップで、受講生への指導において工夫している点はありますか。
picorinaの性能と利便性を高く評価する陣内先生。
臨床に即した発言で鍼通電の議論に深みを与えてくれた。陣内:まず電気治療はどういったものか。電気エネルギーの概念からお話しするようにしています。もう少し具体的に言えば、電気刺激は疼痛を緩和でき、微弱電流は機能回復を早めることできます。鍼自体の組織回復に加えて、鍼通電はさらにプラスアルファになることなどは、説明するようにしています。
受講生からはどうしても「ぎっくり腰には、どこのツボですか?」「坐骨神経への鍼通電はどこにやればいいですか?」というような質問が多いのですが、治療は鑑別次第のところがあります。鍼通電治療は再現性が高いとはいえ、ハウツー的なところは本質ではありません。それよりも基礎的なところをしっかりと学んでもらったうえで、実践のなかで応用してもらえるのが大切だと思っています。
高橋:私のワークショップでは筋肉への通電しか知らない方が多いので、「どうやったら筋肉を大きく動かせるの?」という質問が多いですね。例えば、肩こりがつらい患者さんには、仰臥位になってもらって、肩甲背神経に鍼通電を行うと、肩甲間部の筋肉に動きを与えられます。一日のワークショップで身につきますので、そういう体験をしてもらっています。もちろん、目的がなく筋肉を動かしても仕方がないのですが、特定の筋+神経にアプローチできるのは、鍼通電の特徴の一つです。
陣内:肩こりや首の痛みなどには、鍼通電は非常に効果的で再現性も高いですよね。肩甲背神経は、肩甲挙筋、菱形筋などを支配していますから、私も神経パルスをよく用います。
鍼通電の鍼はどのようなものを使っていますか。
陣内:鍼はたくさん種類がありますが、一つにこだわらずに幅広く使うようにしています。ただ番手については、安全性ガイドラインで鍼通電は3番鍼以上が推奨されています。深いところや硬結が強いところには太いものを使うなど、症状によって調節しますが、3〜8番で行っています。あと鍼通電で横刺する場合は、どうしてもクリップの重さで落下しやすいです。その場合は、シリコン不使用のセイリンの軟鍼を使うようにしています。
高橋:私は、普段の治療でも、ワークショップでもなるべく同じ鍼を使うようにしていて、通常はセイリンのLタイプ5番、寸3です。それを基準にして、腋窩神経や次髎穴には2寸を、坐骨神経、陰部神経には3寸を、という具合に、部位によって長さを変えています。あと鍼管は重いほうがしっくりくるので、プラスティック製ではなく、金属製のものを使っています。
鍼通電のデメリットはどんなところだと思いますか。
陣内:鍼自体が初めてで恐怖心がある患者さんには、ハードルが高いですよね。「鍼までして電気まで流すんですか」と…。
高橋:わかります。特に整骨院に勤務していたころは、鍼自体を受けたことがない患者さんが多いので、鍼通電にまでなると、警戒心がさらに高まります。そんなときは、患者さんが不安に思いそうなことを先回りして言ってあげると安心したりします。「ビリビリすると思ってるでしょ。拷問じゃないから、そんなことしないからね」と(笑)。
陣内:説明の仕方は大事ですね。あとデメリットいうか、不便なのはやっぱりコードじゃないですか。
高橋:使っているうちにぐちゃぐちゃに…。
陣内:最近、100均でコードを束ねるのにちょうどいいのを見つけました。iPhoneのケーブルカバーなんですけど。そこにグリップのカバーを使うとコードが引っかかりません。PULSMAで実際にやってみたら、絡みにくくなりましたよ。面倒でも毎回きっちりとこれをやっておくと使いやすいです。
高橋:これはいいですね、アイデア商品です(笑)。
これから鍼通電を臨床に取り入れる場合は、どんな鍼通電治療器がよいですか。
高橋先生が長年、愛用する「セイリンディスポ鍼LタイプSP」(右)と陣内先生が使用する「セイリン鍼灸鍼JSPタイプ」高橋:初めての鍼通電治療器は、安くて丈夫なのが一番でしょうね。
陣内:同感です。自分の治療法を確立するまでに、いろいろ試行錯誤が必要ですから、使い倒すことですよね。
高橋:いろいろ治療していくなかで、新たな発見があります。私の患者さんには音楽家が多いのですが、小指球筋のあたりを指差して「手がこって仕方ないから、ここを鍼でズブズブとやってほしい」と言われたことがあったんです。
陣内:音楽家も肉体を酷使しますからね。
高橋:でもそんなことをしたら、手部の筋線維を傷つけてしまいます。なんとか方法を探していたら、骨間筋を動かせる鍼通電ポイントが見つかったんですよ。効果てきめんでうれしかったですね。のちに森ノ宮医療大学の山下仁先生に尺骨神経パルスだと教わりました。それを「医道の日本」に取り上げてもらったのです。
陣内:鍼通電は再現性が高いので、そういう臨床での発見が次に生かしやすいんですよね。外反母趾もなかなか通常の鍼灸治療だとアプローチしにくいですけど、鍼通電と併用すると、母指内転筋の拘縮を緩めることができます。
高橋:技術面もそうですし、鍼通電治療器の機能を使いこなさないまま、飽きてしまう人もいますが、もったいないですよ。
陣内:そうそう、最初の初期設定のまま、周波数をただ変えるだけで使い続けるんじゃなくて、出力電圧の設定を変えたり、出力モードを変えたりして、患者さんの状態に応じた最適な刺激を探ってほしいです。鍼通電の魅力に改めて気づくかもしれません。
高橋:臨床の幅を広げるという意味で、鍼通電の可能性は無限にあると思っています。まだ使ったことのない人はもちろんですが、これまで使おうとして挫折した人も、ぜひまた臨床に用いてほしいです。