インタビュー 2021/10/01 リーガ初の日本人トレーナーの教え -「こうしたい」よりも チームを勝たせる 今から20年以上前、〝プロスポーツトレーナー〟という言葉が未だ定着していなかった時代に裸一貫で異国の地に渡り、武者修行に明け暮れたひとりの日本人がいる。強豪がひしめく欧州サッカー界のクラブチームトレーナーとして数多の経験を積んだその男は、ローカルクラブを出発点にスペイン1部リーグと日本人初のプロトレーナー契約を結ぶことになる。国内では、なでしこジャパン代表選手のサポート、早稲田大学サッカー部トレーナーを務めるなど、プロスポーツトレーナーの第一線を歩み続ける山田晃広氏に、業界の発展と後進育成に懸ける熱い思いをお聞きした。
山田 晃広株式会社The StadiuM 代表取締役 鍼灸あん摩マッサージ指圧師 1974年12月4日生まれ。スペイン1部リーグのプロトレーナー時代は、フィジカルとメンタルの両面から強豪クラブをサポート、トップアスリートから絶大な信頼を得る。これまでの豊富な経験を活かして、株式会社The StadiuMを立ち上げ、代表兼トレーナーに就任。日本初のプロスポーツトレーナーアカデミーを運営し、トレーナーを志す学生に向けた活動を精力的に行っている。 株式会社The StadiuMhttps://thestadium.co.jp/ トワテック 〝トレーナー〟が持つ言葉の範囲は広いように感じます。山田先生はプロスポーツトレーナーをどのように定義されていますか? 山田 僕はトレーナー、スポーツトレーナー、プロスポーツトレーナーの三つに分類しているんです。トレーナーは幅広いスポーツジムやエクササイズ専門店で働かれている方。スポーツトレーナーは高校や大学などのアマチュアスポーツを対象にトレーナー活動をされている方。一方で、プロスポーツトレーナーは対象者がプロ選手で、職業として生計を立てることができる人物、という認識をしています。 トワテック トレーナー活動だけで十分な生計を立てている方は、日本では少ない? 山田 Jリーグを例に挙げると、J1が20チーム、J2が22チーム、J3が15チームの合計57チームが存在します(2021年9月現在)。1チームトレーナーは平均2?4人程度ですので、ざっくりした計算でもそれほど多くはない。当然、他のプロスポーツにもトレーナー職は存在しますが、職業比率で考えると全体数はかなり少ないのではないでしょうか。 トワテック 想像以上のハードルの高さに驚きました……。 山田 それでも僕がスペインに渡航した20年以上前に比べれば、トレーナーを育成させる環境はだいぶ整ってきたと感じています。当時はスポーツトレーナーの重要性を知りながらも、職業として成立できる人は本当に少なかった。現在は中学・高校の部活にトレーナーを付けたりと体制も整いつつあるので、職業の認知性は向上してきたように思います。 トワテック 株式会社The StadiuMが運営するProSTA(Professional Sports Trainer Academy) では、どのようなカリキュラムが組まれているのでしょうか? 山田 専門学校でも座学や技術の講義はありますが、うちでは対アスリートに必要とされるトレーナー技術を抽出して教えています。学習しなければいけないことがたくさんある中で、現場で対応できるだけの次元には引き上げますので、それ以降のトレーニング理論やスポーツ栄養学、より高度な技術は積極的に動きながら貪欲に身に付けていってほしい。ProSTAではアスリートに携わる上で最低限必要とされ、即現場で通用できるようになるためのプログラムを組んでいます。ここだけは押さえておきなさい、と。 トワテック 柔整系専門学校に通っていて、スポーツトレーナーを目指している学生さんに向けて、重点的に磨いてほしい分野はありますか? 山田 僕は技術とメンタルの両面を磨く必要があると考えています。技術面はテーピング、スポーツマッサージ、関節モビライゼーション、ストレッチの4項目。応急処置の技術も大切ですが、1日1回出るかどうかだったりもするので、アスリートに通じるストレッチだったり、リカバリーのためのリンパスポーツマッサージがより重要になってくるんです。 トワテック その一方で、必要とされるメンタリティーとは? 山田 メンタル面では自分の我(考え)を押し通すのではなく、選手達に合わせていく、チームスタイルに自身が変化していくことが大事です。郷に入れば郷に従え、ですね。自分が「ああしたい、こうしたい」なんて、はっきり言ってどうでもいいんです。チームを勝たせるために、いかに自分を変えられるか、精神的な柔軟性が試されてくるわけです。 (後編へ続く) (後編)リーガ初の日本人トレーナーの教え② -「ごめんな。この後にしっかり見るから」 おまけ動画「山田晃広に10の質問(前編)」