vol.027米国医療制度(後編)
前回は病院勤務の医師、そして医療費の請求システムの話をしましたが、今回はその健康保険医療制度についてお話ししましょう。
現在、アメリカには日本のように全国民を対象とした公的医療保険制度、いわゆる国民皆保険と言うものが存在しません。
あるのは、65歳以上を対象としたメディケアと呼ばれる医療保険と、低所得者医療扶助制度であるメディケイドのみです。
低所得者と言ってもメディケイドの給付には厳しい制限があります。
全米で最も制限が緩いとされているニューヨーク州でも、夫婦の保有資産が$5150(日本円で約50万円)以下、月間所得が$850以下(約8万円)となっています。
これはかなりの制限だと思います。
では、これ以上の収入がある低所得者の人はどうするかというと、、、、、自己負担で民間の保険に加入しなければなりません。
でもそれだけの経済的な余裕がない場合は問題です。
実際、民間の医療保険に加入する事の出来ない人は、現在4700万人、総人口の16%以上に及ぶと言われています(US Front Line参考)。
ちなみにアメリカの貧困層として分類されるのは4人家族を例にとると、年収$2万600(約2百万円強)以下の場合です。
相対的な基準としては収入がその世帯の食料購入費の平均の3倍に満たないものと言われています。
それに対し、民間の保険会社の保険料は4人家族で毎月平均$500(約5万円)、年間計算すると$6000(約60万円)にもなるわけです。
つまり、貧困層の人達にとっては保険料が年収の約三分の一以上に相当するわけです。
そんな巨額の保険料等払えるわけがないのです。
というか、貧困層だけでなく中流層の人にとってもこの負担は大きいのです。
もう一つの難点はお金があっても過去に大きい病気(既往症も含む)をした人は保険に加入出来ないことになっています(会社で入る保険は例外ですが)。
この為、友人には自分で会社を設立し、自分の会社で保険を出す様にして加入している人が少なくありません。
何とも不思議な制度です。
医療制度の進んだヨーロッパ諸国から見るとアメリカは先進国とはいえかなり遅れた医療保険制度といえるでしょう。
オバマ大統領は国民皆保険を将来的な視野に入れた上で、まず現時点では子供を持つ親に対して、子供を保険に加入させる事を義務付けるといった政策案を打ち出しました。
成人に対してはあくまでも自主的な加入を促そうとする考えです。
しかし、政府の義務付けなしには保険費加入者が加入するのは困難であるという批判が寄せられています。
オバマ大統領は医療制度に詳しい人を次期厚生長官に起用する等着々と準備を進めてはいますが全保険改革に必要な、かなり巨額な財源の確保等問題は山積みのようです。
さあ、これからのアメリカの医療保険制度はどうなるのでしょうか?
僕たち開業している者にとってはある意味、死活問題です。
- 小松 武史先生