vol.0117従業員として相応しい人間像とは
医療・介護業界の離職率は全産業の中でも高く、入社後3年未満に離職する割合は40%以上とも言われており、恒久的に人材不足に悩む治療院も多いのではないかと思われます。
この3年という節目の壁を乗り越え、従業員の定着率を高めるにはどうしたら良いのでしょうか?
ここを通して『院長(社長)が変われば、治療院(会社)が変わる』と訴えて参りましたが、その一方で、良い人材を採用することも大切ですよね。
正直、私自身も人材不足スパイラルの渦中で事業をしていますので、これという特効薬を持ち合わせているわけではありませんが、当社での従業員を採用する方針をお話しさせていただきます。
当社で従業員を採用する際に重要視しているのは、『前向きで素直な人材であること』のみです。
決して能力は重視していません。
ここで、実際にあった当社でのエピソードを紹介します。
約10年前になりますがS君という人材を採用しました。
当時も人員不足でしたので採用はしてみたものの、彼は本当に要領が悪く、仕事もなかなか覚えることができず、現場ではなんの戦力にもなりませんでした。
考え抜いた揚句、試用期間を終えた段階で雇用しないことにしましたが、しかし彼は『どうしてもこの仕事がしたい!』と言うので、話し合いの結果、試用期間を再度延長することになりましたが、やはり採用を見合わせることになりました。
そのとき私はS君にこう話をしました。
『当社では君のような人材を一から教育してあげる余力もないし、教育するシステムも持ち合わせていない。ファミレスやハンバーガーショップなどのしっかりとしたサービス業で働いて修行をしてみたらどうだろう?』と提案をしてみました。
彼はその提案を素直に受け入れ、ファミリーレストランでアルバイトを始め、その間なぜか私のところにも良く報告がやってきました。
その後、時間のある時は当社の施設でもアルバイトすることにもなりました。
2年後、当社で人材募集を行っていた際に、現場のメンバーたちから『S君はもう一人前として仕事ができると思います!新しい人材を採用して一から教えるよりもS君を採用していただけないでしょうか?』と皆から提案を受けました。
彼の前向きな努力により、周囲からの信頼を勝ち取り、正社員になることができたのです。
S君は現在も「仕事の」能力は高くありませんが(笑)、当社のリーダー役として重要なポストを担っています。
要領や能力があるがために努力することを怠る人材よりも、要領や能力が無くても『素直』に努力する人材が最後には、成長していくことをS君から気づかされたのです。
このような経験から当社では、『前向きで素直な人材』を採用の最重要項目に入れたのです。
前向きに素直に頑張る力ということが、実は立派な『能力』であるとも気付かされた事例でした。
栄えている治療院も繁栄している会社も、良い成果を上げている個人もこのような「頑張る力」を育てていかなければなりません。
治療院も同様で、頑張らないでもお給料をもらえる治療院のスタッフは、頑張らないとお給料をもらえない治療院のスタッフほど、頑張れなくなってしまいます。
栄えている治療院も次第に弱くなってしまうのです。
個人も同様で、一度強くなってしまうと頑張って成果を上げるより、楽をすることを考えてしまいがちで、次第に衰退してしまいます。
今の治療院や会社が繁栄していたとしても、時の流れと共に世の中は変わり、衰退して行きます。
そのような時代の流れに柔軟に対応できるようにしていかなければなりませんね。
変わらないことを期待するのではなく、変わると思って、従業員と共に一生懸命頑張って行動をすることがとても大切です。
- 中山 哲志先生
- NPO全国鍼灸マッサージ協会 副理事長兼渉外広報局長