vol.092外来診療の落とし穴 ―長引く膝の痛み―
その患者さんは80代の女性で、3ヶ月前から左膝の痛みがあり近所の整形外科に通院していました。
痛み止めの投薬と物理療法、ヒアルロン酸の注射が行われていましたが、痛みが全然良くならないために娘さんにつれられて自分の外来を受診しました。
診察してみると、確かに膝は腫れていて、膝蓋跳動(関節液貯留で起こる)を認めます。
McMurrayテストは陰性で、内側の関節面とそれよりも遠位にも圧痛を認めます。
レントゲンでは骨棘形成、関節裂隙の狭少化、骨粗鬆症性の変化を認めました。
では皆さんはここでどんな診断をつけますか?
結果からいうと、この患者さんは脛骨近位部に骨粗鬆症による脆弱性骨折を来していました。
注意して診察をしてみると、関節面よりも遠位をすごく痛がります。
変形性膝関節症の患者さんは鵞足の部分にも圧痛を訴えますが、今回の圧痛は鵞足とも違っていました。
診察ではどこに圧痛があるかを注意深く確認することが重要で、変形性膝関節症とは違う部分を痛がる場合は要注意です。
また数ヶ月経過してもいっこうに改善しない痛みというのも骨折などを疑います。
レントゲンでは骨折が診断出来なかったため、MRIを撮影すると脛骨の近位部に骨折が確認出来ました。
これにより骨粗鬆症を基礎疾患とした脆弱性骨折と診断出来ました。
骨粗鬆症が進むと外傷が無くとも骨折を来すことはよくあります。
さて治療ですが、未治療であった骨粗鬆症の治療を開始し、定期的にレントゲンを確認したところ、骨癒合もみられ2ヶ月程度で痛みは落ち着いてくれました。
今回の症例では手術が必要になった訳ではありませんが、きちんとした診断と、治癒の見込みを患者さんに示すことは、患者さんの不安を軽減し、治るまでの間痛みと上手につきあっていくことを可能にします。
また触診の重要性を再確認出来た一例でした。
- 北村 大也先生
- 整形外科医