創業362年の釜屋もぐさは、切艾、カマヤミニ、カマヤミニスモークレスなど時代のニーズにこたえて新しいお灸の形を提案し続けてきました。「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ」という神学者ラインホールド・ニーバーの『祈りの言葉』を彷彿させる老舗メーカーのありかた。後半は古くから今も続く品質へのこだわりについてのお話です。

【“悪いものは悪いまま”一定の品質をキープし続けるということ】

カマヤミニは、けむりの匂いがマイルドですね。


基本的に弊社では、国産のもぐさを使っています。
日本と中国ではヨモギの品種も、もぐさの製法も違うんです。中国のもぐさの作り方は、ヨモギを天日乾燥したものをグラインダーでカットして作っているので、短くてパサパサした感じになります。国産のものは、ヨモギを火力乾燥させてから、石うすで挽いて作るので毛が長いのが特徴です、香りもまろやかなんですよ。

間接灸にも、国産もぐさを使用しているんですね。

カマヤミニなどの間接灸には、粗いもぐさの中でも上質なものを使用するようにしています。
もぐさを作るときには、「お灸として、それぞれの用途別に使いやすいこと」を考慮し、使ったときにどうなるかを考えて商品を作っています。そのときに大切なのは、“良いものは良いまま、悪いものは悪いまま”をずっとキープすることです。そうでないと、使ったときの治療の効果も一定になりませんので。

私も温灸用のもぐさは、高温がでるようにあえて粗悪なものを選ぶようにしています。もぐさメーカーさんが、粗もぐさを粗く作り続けてくれるおかげで、我々、鍼灸師は同じ質の治療を続けられているのですね。


もぐさの品質を一定に保つことって、結構大変なんですよ。もぐさの原料のヨモギは天然のものなので、天候の影響を受けて年ごとに状態が変化します。それを去年のもの、一昨年のもの…と各年の見本と比較しながら、つねに同じものを提供し続けられるように努力をしています。そうすることが、長く使ってくださる方の信頼に応えることに繋がっていると思います。
今でも昔ながらのやり方で、石臼を使ってもぐさを作っているのは、その手順でやらないと同じものが作れないからです。そのようにすることで“良いものは良いもの、悪いものは悪いもの”と、同じものを出し続けていけるんです。

時代ごとに新たな商品を生み出している一方で、もぐさは一定の品質をキープするために昔からの製法を今も続けている、創業362年の老舗ならではの誇りを感じました。富士社長は釜屋のお灸を通じて、なにか伝えたいことはありますか?


2020年の4月に、現会長の父から跡を継いで12代目富士治左衛門を襲名しました。プレッシャーがないと言ったら嘘になります。それこそ、江戸時代は大店だったので、それと比べるとまだまだなところはたくさんありますが、目の前のお客さまと、目の前の商品を大切にすることしか考えていません。
お灸はご自宅で手軽にできますし、健康であれば病気や感染症になりにくいと思います。そうしてお灸を通じて、みなさんの健康の一助になれれば幸いです。

最後に、取材にご同席いただいた先代11代目富士治左衛門会長からも、お言葉をいただけますでしょうか。

現当主の富士武史がお話させていただいたと思いますが、皆様に安心して使っていただけるもぐさの開発、生産に努めて参りたいと考えております。また、もぐさの歴史や江戸時代のお灸、風俗、時代背景等、興味を持たれて調べられる際は是非お声がけください。きっとお役に立てるのではないかと思います。今後とも釜屋もぐさをよろしくお願い致します。

(編集:ハリトヒト。)

『【キュウトヒト。】釜屋もぐさ本舗・十二代目富士治左衛門━━、老舗の歴史と伝統と挑戦。(前編)』はこちら→